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2012-09-24 鮎と蛙

あるところに水を知らない鮎が居た。

彼は生まれたときから陸ですごしていた。うまく歩けないことを歯がゆく感じることもあったが、それでも貝よりはうまく歩けるのだからと、たまにぐちをこぼすくらいで諦めていた。

ある雨の日、彼はひれをすべらせて穴に落ちた。穴は深くはなかったが、そこには数日の雨でたくさんの水がたまっていた。

彼はすぐにそこが自分の居るべき場所だと感じた。えらから吸う空気は格別だったし、何より体が軽かった。びゅんと尾ひれをふるたびに勢いよく体が前へと進んだ。頬に当たっては後ろへと流れていく水が心地良かった。

雨があがった。

かたつむりが葉の上をのろのろと歩いているのを彼が水面から見ていると、蛙がやってきた。蛙は穴のそばの石に座ると、彼を哀れむように言った。

「いつまでそんなところに居るつもりだ。みんな陸ですごしているのに……。キミはいつまでそんなところに居るべきじゃない。」

蛙の言葉に鮎はむっとした。

「蛙には足があるが、ぼくにはない。ぼくにはここが一番なんだ。」

蛙はのどをならしたあと悟ったような顔をして言った。

「そんなだからキミには足が生えないのさ。大人に成れよ。陸にあがれよ。おれとあがろうぜ。石から石へ飛び移ろう。気持ち良いぜ。君はその楽しさを知らないんだ。」

鮎は心底うんざりした。


鮎と蛙の話を途中まで書いた。この物語はもちろんフィクションだけれど、実話を元にしている。だから、ぼくはこの続きをまだ書けないで居る。できれば、鮎がもっと広い水辺に出てハッピーエンドとなってほしい。陸にあがる展開は考えていない、蛙には悪いけれど。

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