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2015-11-02 『 ALLIANCE 』をよんだ

『 ALLIANCE 』

『 ALLIANCE 』を読んだ。「人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」というサブタイトルだ。

本書における「アライアンス」とは「会社と個人の間にフラットで互恵的な信頼に基づくパートナーシップ」のこと。これは言い換えるとある個人がいま会社と雇用契約しているかに関わらず信頼関係を保ち続けるということ。本書ではこの「アライアンス」のメリットやそれを実現する方法について書かれている。

要約する。前提として、シリコンバレーが舞台である、これは背景として終身雇用の時代を経て総フリーエージェントの時代になった状態を置いていることを意味する。問題として、先に挙げた背景からそれぞれの信頼関係が失われ「雇用を保証しない」「いつでも辞める」という武器を持ってにらみあっている現状を挙げている。その解決策としてお互いの価値観を一定期間すりあわせて整合性を取り、互いに良くなるように話し合い、努めることで信頼関係を取りもどすことを提案している。そんなところ。

感想。

本書の背景とぼくの背景とは違う部分もあるけれど大きな流れとしては一致していると思っている。

終身雇用の崩壊については一致していると考えている。日本とシリコンバレーとはきっと違うし、会社と個人との関係も様々だろう。少なくともぼくの勤めているフェイスクリエイツという会社は、終身雇用を約束できるような会社ではないだろうし (数人の会社だし、収益が異常なほど高いわけでもないのだから、きっと崩れるときはあっという間にくずれてしまうだろう) 、たくさんの人を考えなしに雇うだけの余裕もない。これは自社を否定するという意味ではなくて、多くの企業にとっての現実になっているとぼくは考えている。

一方で従業員がみんなフリーエージェントのように考えているかというとそこは一致していないと考えている。ぼくには自分の市場での価値についてそこまで考えていないように思える。目先の、会社の、今月の、今週の、今日の、いまの仕事のことをいかにうまくやるかに終始している人が多いような気がする。正直なところ、ぼくもあまり考えられていない。ぼくはむしろフリーエージェントのような関係をまず目指すべきだと思う。そうなりたい。

終身雇用の一致とフリーエージェントの不一致という背景でのズレはあるが、将来的に少しずつでも日本はこういう方向に向かっていくだろうと、ぼくは予想している。

そして先の背景のズレに関わらず本書の「アライアンス」の要素は悪くないと思う。

会社と個人とで双方に長期的な利益があることを確認するという姿勢は良い。ここで重要なのがそれが極めて長期的であることだ。利益があるかの確認はいまでも金銭的・短期的なものについては行われているだろう、だがそれ以外の、たとえば雇用関係が切れた後の関係を含めて利益があるかについては行われていないはずだ。

一方で本書では長期的な利益について考える上で、短期的に目標を明確にすることも強く求めている。「コミットメント期間」やその「タイプ」やタイプ別の面談方法などだ。長期の視点で見て、なおかつ、その一部分だけをやりましょうというのは進め方として正しい。期間を限定して目標を設定し互いに評価する。そういうサイクルは信頼をつくれる、ぼくもそう感じる。

短期的だけではダメ、長期的だけでもダメだ。一方の利益ではダメで、双方の利益でなければならない。

ぼくは本書において注意すべきだと思う点がいくつかある。

本書は全体的に会社視点だと感じることだ。これは個人がこうすればいいというものではなく、会社がこうすればいいと提案する本だからだろう。

たとえば卒業生ネットワークの話は、ぼくからすると勝手にやれよって感じで、ネットワークへの追加を従業員へのメリットのように語るのは違和感があった。社員のネットワークを使うという話もマルチまがいか、某保険会社のセールスレディのようだと感じた。ぼくがそういう人間を見れば、洗脳されているか、自身の親戚などの関係を金のために売りさばくような下衆だと確信するだろう。気持ちが悪い。もちろん、友達の友達は友達という某 SNS のような発想はないではないが、本書での進め方はそうやってネットワークを構築すると自分に都合が良いという話に終始していて、個人と会社との相互に利益がある関係を論じるという風には見えなかった。

また、できない社員への対応がいまひとつはっきりしない点も気になる。コミットメント期間が契約期間ではないこと、力関係に注意すべきであるということは頻繁に書かれている。つまり会社が力任せに従業員を従わせるという形は信頼関係をつくる上でふさわしくないということだ。このアイデアは正しい。しかし会社にとってメリットがない人が現れた場合、できない社員が現れた場合はどうすればいいのだろうか。想定外として、一方的なアライアンスの破棄は SNS などで流れて被害が……となっているが、どうなのだろう。想定としては対話して互いの利益にならないから、今後も部分的な関係を維持しつつも別れましょうといくといいのだけど……。

ぼくが自分から選ぶような本でもないので新鮮な気持ちで読むことができた。